編集者あとがき なみきたかし
川本先生から本書の出版について相談されたのは、早くも10年以上前の話になります。編集作業は明記されている初版の発行日昭和59年(1984)よりずいぶん前のことですから、もう二昔前のことのように思えますが、忘れられないことばかりです。
私たちにとって、経験のない大冊の出版なので編集作業は遅れに遅れました。 同時に進めていた初めての人形展が新宿で始まっても、まだ本は出来なくて、1万人ものファンが来場してくれたのですが、出すものは遅延のお詫びだけという事態にあきれた川本先生の顔は忘れられません。
やっと編集を終えた後の印刷行程でも、インクが片寄って部分的に色が薄くなってしまうというトラブルがあり、3000部分の刷り上がりを全て捨ててやり直すという信じられない出来事もありました。なにしろ工場一杯の紙の塊を捨てたのですから、あまり思い出したくないことです。
絶好の販売チャンスを逃したにも関わらず、初版は好評でほどなく売り切れとなりました。しかし、定価を低く設定したので大赤字になってしまい、これも関係者にあきれられたのでした。
今でも時にはあの人形展の時に今の定価で売っていれば..、という宝くじに当たったような夢を時々見ます。
そんな失敗続きのこの出版も版を重ね、多くの方々に愛されていることが最近になって実感できるようになりました。今では成功した出版と言いはる私に、またまた川本先生は内心あきれていることでしょう。 もちろんそれは、この人形たちの持つ力の前には凡人のなした失敗などたいした影響もない、といった事実を実証しただけなのですが。
私たちアニドウはアニメーション研究を専門としています。川本先生も世界的に著名なアニメーション映画監督としてご指導を仰いでいたものですから、本書の出版は私たちの受け持ち分野ではない、と当初は考えておりました。 しかし今では、人形たちとの出会いを感謝し、<生命を吹き込む>という本来の意味でも、これはアニメーションの範疇にも入るものであり、私たちの活動としても的を得ているものであったと今にして思えるのです。 貴重な経験を与えてくれた川本先生と人形劇「三国志」のスタッフ、読者のみなさんに心から感謝いたします。 (1996年12月)