森さんについて ひこねのりお
もう三十年ほど昔になりますが、私が森さんの作品に出会ったのは、アニメー ションではなく、月刊雑誌「漫画少年」(多くの漫画家を育てた素晴らしい少年 雑誌で復刻版が出ています。)の表紙でした。森さんの描いた表紙の絵には漫画 でも童画でもない新鮮な魅力が感じられました。表紙の動物たちが今にも動きだ しそうな気配がするのは、森さんがアニメーターだからにちがいありません。
半年ほど続いた森さんの表紙の中でも私が一番好きなのは、月の砂漠をラクダ にのった動物たちが旅をしている作品です。「この連中は何処へ行くのかな?」 と想像せずにはいられない楽しさがありました。
森さんが描くキャラクターは、品がよくて、あたたかくて、観ているとホッと します。好運にも私は東映動画で森さんのキャラクターを動かすチャンスにめぐ まれました。あの頃は仕事が仕事と感じられないくらい楽しくて、森さんのキャ ラクターと遊ぶために会社へ行っている様なものでした。森さんはおだやかで謙 虚な人ですが、仕事に対してはきびしい人ですから、私などが動画を観てもらう ときは非常に緊張したものです。
森さんはよく「アニメの神様」と呼ばれます。それは教祖的な御姿をしている からだけではなく、天才とか鬼才以上の魅力を持っている人格者だからです。東 映動画スタジオ出身のアニメーターや日本アニメーションのアニメーターは多か れ少なかれ、森さんの影響を受けているのではないでしょうか。「そして森さん の影響を受けたアニメーター」の影響を受けているアニメーターの数もはかり知 れないものでしょう。
又、作画監督の元祖も森さんです。東映動画の長編アニメ「わんぱく王子の大 蛇退治」は、森さんが初めて作画監督として、今までにないスタイルのキャラク ターで統一した作品です。最近では作画監督システムは当り前になっていますが 、この作品以前には作画面で全体を統一するシステムがあいまいだったのです。 この作品が成功したからでしょう、その後このシステムは不可欠なものになった のです。
森さんは企画力もすぐれています。「ハッスルパンチ」などは世に出るのが早 すぎたくらいのしゃれた都会的センスが感じられるギャグアニメでした。もっと 森さんの企画力を生かせるプロデューサーが出てくればよいのですが、残念です 。この「ハッスルパンチ」にしろ「こねこシリーズ」にしろリメークしたらとて も楽しいのではないでしょうか。
そして、これからも森さんの新しい企画と新しいスタイルのキャラクターの絵 本を期待しております。
(編集部注:本原稿は昭和60年に頂きましたものをそのまま掲載させていただきました。)